カツオはタタキで食うのが一番だ、というのがおいらの信条。刺身も悪くはないけど、表面の皮をわずかに焦がしたタタキは、なんとなく旨味が増してお得なような気がする。本場では藁で焼いたりするらしいが、まさか台所で藁を燃やすわけにも行かないので、ガスの強火で我慢しよう。さいきん流行りの電磁調理キッチンだと無理だね、ざまーみろ。
まずは、カツオを買ってくる。この時期になると駿河湾のカツオも安く出まわるようになる。今日は3kgくらいのが2000円だった。三枚におろした半身をまん中で更にわけて、一匹のカツオから計四本の身が取れる。血合いとアラはサッと湯がいて犬の餌。ウチの犬は血合いが大好きだ。犬は臭い物が好きだね。レバーも好きだし、いちばん好きなのは脱いだ靴下と、庭に落ちてる猫の糞だが。カツオは鱗がないのでおろすのも楽だ。この棒みたいなカツオに金串を刺して、強火で炙る。皮のついた側はかなり頑張らないと焦げてくれない。身のほうはすぐに火が通るので、加減が必要。五月のカツオはまだ脂があまり乗ってないのでパチパチと爆ぜる音はしない。これが戻りガツオだと火花を散らしてバチバチ爆ぜる。おいらはあまり脂の乗ってないのが好きだ。
江戸っ子が初ガツオを好んだというのも、脂がなくてさっぱりした風味だからで、マグロにしても脂の乗ったトロより赤身が好まれた。話はそれるが、赤身といえば田子の天狗寿しのマグロ赤身は旨かったなあ。実は、マグロというのは肉と同じで新鮮なのが美味いとは限らない。熟成させる必要がある。だから、都会や山奥では美味い刺身というとマグロになる。海が近い伊豆半島ではサバだろうが生シラスだろうが何でも生でおいしく食えるので、あまりマグロにはこだわらない人が多かったりする。尾赤(アジの一種らしい)やイワシのような、東京では「生で食う魚ではない」と考えられている魚が「刺身で食うとマグロより美味い」なんて信じられている。カツオはどちちらかと言うと足が速いクチで、新鮮な方がおいしい。江戸時代には獲れたてのカツオを食べられたのは将軍さまくらいのもんで、庶民の手元に届くころには半分腐ったような状態だったらしい。
さて、ここからは諸説あって、氷水で「締める」のか、そのまま切るのか、人によって違う。一般的には氷水で締めて余熱を取るのだが、土佐では藁で炙ったそのままで食うらしい。まあ、どっちでもいいや。そんな小さな事にこだわる食い物ではないような気がする。とりあえずおいらは冷やすけどね。カツオを買うと氷がオマケについてくるので、それでザッと冷やす。余熱を取るだけなので長時間漬けてはいけない。旨味が水に溶けだしてしまうような気がする。冷やしたらまな板にのせておけば水気が抜ける。
薬味だが、これにも生姜にするのかニンニクにするのか、論争が絶えない。両方使う人もいる。おいらは生姜派。あまり良くない生臭いカツオだとニンニクで誤魔化すのもアリかも知れない。更にミョウガ、ネギ、紫蘇の葉など、適当に刻む。タマネギも良いし、ここら辺は好みだ。今回はちょっとした思いつきでニューサマーオレンジを薄切りにしてあしらってみた。おいらが子供の頃にはこんなもん、なかったね。急に流行りはじめたようだが、伊豆の初夏を告げる名物になりそうだ。食ってから調べてみたら、なんでも柚子の親戚だそうで「小夏」とか「日向夏」とか呼ぶ地域もあるらしい。黄色い表面の皮だけ包丁で剥く。中の白い皮が甘いので、それは残しておくのがコツだそうだ。知らないでホンの思いつきでやったんだが、柚子の親戚だけあってカツオのタタキにはとても似合う。しかも初ガツオと同じ時期に出てくる。使わない法はないってもんだ。
さて、このカルパッチョのソースだが、……って、おいおい、いつからカルパッチョになったんだ? タタキじゃなかったのか? ニューサマーオレンジだけでは酸味が足りないのでレモンと合わせる。絞り汁半々くらいで良いだろう。更に醤油と味醂少々。カツオのタタキには通常、ゆずぽん酢醤油を使うのだが、このニューサマーオレンジ&レモンぽん酢醤油は一層フルーティーでいい感じだ。もともとぽん酢というのは柚子の専売特許ではない。オランダ語で柑橘類の果汁を意味する「pons(ポンス)」がなまってぽん酢と呼ばれるようになったので、ニューサマーオレンジ&レモンの絞り汁でもぽん酢に変わりはない。というか、お酢が入っているわけではない。本来は「柑橘類の絞り汁」というだけの意味だ。勘違いしてる人が多いんだけどね。と、これですべて材料は揃った。たっぷりの薬味とたっぷりのニューサマーオレンジ&レモンぽん酢醤油(長いな、どうも。小夏ぽん酢でいいや)をいっぱい散らして、さあ、めしあがれ。