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伊豆グルメ でぶりんこひーちゃんの夜食講座
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■ 黒はんぺんの生姜醤油
レシピ/1人前
  • 黒はんぺん
  • 生姜
  • 醤油

「おみゃー、そーじゃにゃーだら」とか口にして自分が何で笑われているのか気がつかなかったりするのが生粋のしぞーか人というもんだが、静岡人の特徴としてアイデンティティに無関心というのが挙げられる。「湯飲みの底が見えるようなのはお茶じゃない。お湯だ」と信じていたり、ミカンは買うもんじゃない、どっかから貰うもんだと信じていたりするのだが、そんな静岡人特有の迷信のひとつで「はんぺんは黒い」というのがある。黒いといってもイカスミが入ってるわけじゃないので、灰色というのが正しいのだが、静岡県に生まれ育った人間にとって、はんぺんは灰色をして独特の魚臭さを残した食べ物の事である。

この文章を読んでいる人の中にも「えっ? 灰色じゃないはんぺんなんてあるの?」なんて呑気な人もいると思うが、静岡以外の日本では、はんぺんというのは白い物らしい。しかも妙にぶよぶよしていて歯応えもないし、味もよくわからない。なんだか騙されたような居心地悪さを感じるシロモノだが、逆に普通の日本人にとっては黒いはんぺんというのがそうらしい。特に、黒はんぺんのフライというのが気味悪いらしく、はんぺんフライを食わせると「騙された」と怒り狂う人もいる。見てくれからひと口カツと判断するらしい。逆に東京に出て惣菜屋で潰れたコロッケをはんぺんフライだと勘違いして買って、ガッカリする静岡人もいるとかいないとか。まあ、他県の人から見ればコレははんぺんではなくイワシのツミレの潰れたヤツだろう。また「静岡では糸コンニャクも黒い」という指摘があって、「えっ? 普通、黒いだろ。白いのは白滝だ」とおいらは思っていた。白滝を糸コンニャクと呼ぶ地域も、日本のどこかにはあるのかも知れない。

黒はんぺんは一枚20円とか30円とかで、えらく安い食い物である。たいてい紙のように薄っぺらで、頼りなげなのだが、イワシの魚臭さは強烈なので味はしっかりしている。また、土産物として売ってる物と違って、スーパーの安い黒はんぺんは保存料なんて入ってないのが安心。定番の料理としては、有名な「しぞーかおでん」があげられる。これは何故か夏の食い物という事になっていて、プールの帰りに駄菓子屋でつまむのが本物だそうだ。おいらはかき氷にサイダーかけて食っていたけどな。もちろんフライも定番中の定番。子供の頃ははんぺんフライが出るとガッカリしたもんだが、今では大好きだ。下手なトンカツよりうまい。最近では世の中が贅沢になったそうで、とろけるチーズと重ねてフライにするのが流行ってるらしい。それもやってみたが、まあ、不味くはないけどさほど変化があったとも思えない。黒はんぺんの味は強烈なのでチーズなんかで変わらないのだ。そもそもフライなんてのは衣とソースが美味いのであって、中身なんざ何でも構わない。いや、むしろ中身がなくても構わないんだが、何かないとフライにならない。その点、薄っぺらな黒はんぺんはまさにうってつけだ。

さて、こんな黒はんぺんの産地といえば焼津・清水という事になっているのだが、身近なところにもあった。行きつけの清水町、食遊市場だ。「やいづ屋」という名で黒はんぺんやら薩摩揚げやら売っている。「やいづ屋」というから焼津の会社かと思いきや、沼津市だったりする。まあ、焼津が黒はんぺん系練り物では本場なので「やいづ屋」を名乗っているのかも知れない。ここの黒はんぺんは水産庁長官賞を受賞したという逸品で、どこが逸品かというと厚いのだ。スーパーの安い黒はんぺんは機械製だけど、ここのは手作りでグローブかクリームパンみたいに手の形だ。なんだか紙粘土を握りつぶしたみたいな形だね。ボリューム感たっぷりで、スーパーの紙みたいに薄い黒はんぺんの五枚分くらいありそう。ニンジンとかネギとかの破片が見え隠れしている。やいづ屋では他に薩摩揚げみたいなのとかいわし棒なんてのがオススメだ。どれも黒系練り物で、小田原の名門「籠清」とは対照的だ。もっとも籠清の工場も大井川町だし、材料は輸入だったりするのだが、そこら辺は消費する土地のカラーというものだろう。そういう意味では、底が見えないような濃いお茶をガブガブ飲んで、どっかから貰ったミカンを指が黄色くなるほど食い、イワシ臭い黒系練り物をフライで食い、駄菓子屋のおでんで食い、小腹が減ったら冷蔵庫から盗み食いしてこそ、立派な静岡県人というものだ。

で、この黒はんぺんの食い方だ。煮ても焼いても生でも食える。どう食っても黒はんぺんは黒はんぺん以外の何者でもなくて、特有のイワシ臭さが嫌いだったら食わないという選択肢しかないのだが、もっともおいしい食い方はシンプルに生姜醤油だ。やいづ屋のは厚いので、切り分けるといいね。あまりに薄くて頼りないのは、フライには良いけど生姜醤油には向かない。つうか、眺めていて貧しい気分になってしまうので酒の肴には向かない。やいづ屋のなら、分厚くてリッチな気分だ。ビールにも日本酒にも焼酎にも合うし、ご飯にも合う。派手な存在感のある食い物ではないが、脇役でもない。むかしの日活アクション映画で言えば宍戸錠みたいなもんで、主人公に絡んだり、時には主人公よりカッコ良かったり、地道に微妙に存在感がある。と、黒はんぺんはそんな食い物だと思う。