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伊豆グルメ でぶりんこひーちゃんの夜食講座
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■ 寒い季節にあつあつエスニック
レシピ/5人前
  • 手羽先200g
  • ダイコン半分
  • 醤油、ナンプラー、塩

 バンコクの街角には「おかず屋」というのがあって、多種多様なおかずと炊きたてのご飯を用意して朝から路上で客を待っている。おいら、何があっても朝メシと昼メシと晩メシと夜食は食べる人なので、タイに仕事で行った折には、二日酔いだろうが眠かろうが、8時か9時にはふらふらとおかず屋におもむき、大きな皿に盛られた白いご飯におかず二品乗せ、ついでにスープを注文する。朝メシはしっかり食うのだ。朝だけじゃないが。これで100円くらい。物価安いね。朝から腹いっぱいに詰め込んでから行動開始だ。

タイ料理といっても全部が辛いわけじゃない。中華風のコッテリ味ぎとぎとも多いし、素材を生かしたあっさり味のシンプルな料理も多いわけで、このダイコンスープはあっさり味の典型だ。あるいは濃い味のおかずをコレで中和するのが役目なのかも。というか、おいらの中ではそういう位置づけだ。タイのスープというとトムヤムクンという「甘くて辛くて酸っぱくて苦い」妙なシロモノが有名だけど、実際にはあんなのばかりではない。スープにはあっさり味が多いのだ。で、箱根のよく太ったダイコンが出まわる時期なので、おかず屋のダイコンスープを再現してみた。

まずはダイコンの下準備。適当なサイズに切って生米といっしょに下煮。米が透き通ったら取り出す。次に手羽先、熱湯で洗って生臭さを取ってやる。ずん胴いっぱいに水を張って手羽先をグラグラに煮立てる。ひととおりアクをすくってからダイコン投入。バンコク街角のおかず屋では早朝5時くらいからこの作業をはじめ、客足が止まる午前10時過ぎまで、スープの鍋はずっとガスにかかったままでグラグラと煮え立っている。早起きすると薄味だったり、寝坊すると妙に味が濃かったりする。とまあ、その程度の料理だ。手羽先味が染み出してきたら味付けだが、基本的に「味がないのが持ち味」のスープなので、塩と醤油とナンプラーで最低限の味付けをした。醤油だけだと日本料理になってしまうし、ナンプラーだけだと生臭くなってしまう。また長時間煮るので、それを考慮して薄味にしておく。味を足すのはいつでも出来るが、引くのは不可能だ。

弱火で最低限2時間ほど煮込もう。ダイコンの角が取れて丸くなるのが目安。鶏からしっかりと味を引き出し、それをダイコンに染みこませる大事な時間だ。箸で触っただけで手羽先の肉がハラハラと分解するくらいになったら完成だ。目指すのは午前8時半のおかず屋の味。タイでは手羽先はダシガラ扱いなので、運が悪いとダイコンしか入ってない事もある。でもマイペンライ、旨味はしっかりとスープとダイコンに移っているのだ。ダイコンという食材は一種のスポンジみたいなもんで、自分はさほど味も主張もないけど「何かといっしょに煮る」ことによってしっかりと受け止めてくれる。有名どころではアラと煮るブリ大根とか、昆布敷いて風呂吹き大根とか、おでんの具の旨味を100%吸い込んでみたり、日本にもいろいろあるね。タイではチキン味というのは日本のカツブシに匹敵する定番味なので、これも味噌汁みたいな存在なんだろう。

大きめのお椀にたっぷりよそって、熱いのをハフハフといただく。たぶん、日本人の口では「何か物足りない」と思うだろう。なんたって材料は大根と鶏だけ。味付けもごく薄い塩と醤油だけ。風呂吹きダイコンみたいに味噌系でも乗せるか、水炊きみたいにポン酢でいただくとかいう欲求に駆られる。が、おいら、せっかくの良い素材が手に入ったら極力、手を加えないで食べるのが好きだ。ヘルシーでありながらも、滋養が身体の隅々にじっとりと染みこんで行くような気がする。そういや自炊していた学生時分、金がなくなると鶏ガラだけ買って塩味だけのスープを作り、それだけで三日間くらい生き延びたりしたもんだが。

ところで箱根のダイコンだが、これには歴史と伝統があったりする。むかし三島には軍隊があって、今の日大あたり、おおぜいの兵隊さんがいたらしい。軍隊といえば「カネの茶碗に竹の箸」と歌われたような糧食というのがあるわけで、日本の軍隊メシに必ず付いたのが「沢庵」というヤツだ。むかしの日本人は沢庵と梅干しがあればメシを食う事ができたので、そんな兵隊さんのために箱根では物凄い量の沢庵が作られていた。箱根登り口に鈴木漬物という工場があるが、あすこには超巨大な沢庵桶がいくつも残されている。直径3メートル以上。日本酒の造り酒屋の樽は露天風呂に再利用されたりするのだが、なんせ沢庵桶なので、露天風呂にしたら沢庵臭くてたまらない。で、いまだに風呂にもならずそのままだ。今のうちに是非、三島の文化財として指定してもらいたいもんである。

今では沢庵も商品としては作られなくなってしまったが、かつて沢庵用のダイコンが作られていた箱根西麓には、今でも冬になるとプロ顔負けの高価なカメラを担いだ素人カメラマンが出没する。むかし岡田紅陽という著名な写真家が、ここで大根干しと富士山の名作を撮ったのだ。その写真は教科書にまで掲載され、富士山カメラマンの間では「聖地」とまで呼ばれているそうで、地元ではそんなカメラマンのためにわざわざダイコンを栽培して、昔のように干している。箱根では色んな野菜が採れるのだが、ダイコンも水が良いのでさっぱりしておいしい。ダイコンはほとんどが水分なので、水の違いは即、味の違いになってあらわれる。漬け物工場では浅漬けなど作って伊豆の旅館や三島の飲食店に配達しているのだが、西麓は箱根の水なので三島の水とはキャラクターが違い、当然のことながら味も違うのだった。