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伊豆グルメ でぶりんこひーちゃんの夜食講座
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■ 本枯れ節と山葵でハガツオ茶漬け
レシピ/1人前
  • 刺身の残り少々
  • カツオ節
  • 醤油、山葵
  • ネギまたはアサツキ

出刃包丁がひとつあると、人生がちょっとばかり楽しくなってくる。スーパーでトレイに盛られた刺身を買って食べるよりは、自分で一匹の魚を捌いて食うほうが気分は良いに決まっている。と、そんなわけで伊豆の親爺の中には、うまい魚を食いたいあまりに自前で漁船まで買ってしまう数寄者も少なくない。沼津の漁港や狩野川の河口に停泊している船の多くが、そういう自給自足グルメの船だというのは、知る人ぞ知るところである。

まあ、そこまで人生を捨てなくても市場に行けば地の魚が安く出ているわけで、そんな中から「安くて美味」な掘り出し物を探すのはなかなか楽しい作業だ。清水町の卸売団地「食遊市場」なんかいいね。むかしは素人さんお断りだったが、今では誰でもショッピングを楽しめる。塩漬けメンマ1kgとか、英国C&B社製カレー粉500gとか、業務用ならではの買物もできるし、普通に魚屋もある。巨大なマグロの頭とか尻尾とかに見とれてないで、さて、今夜は何を捌くかね? メジマグロとかカンパチなんぞはいつも見るけど、11月ともなるとカツオを次第に見なくなってくる。アジのタタキにしようか、シメサバ作るか。山陰とか北陸などからも入荷はするけど、ここは地の魚にこだわりたい。何より安いし。で、発見したのがハガツオだ。別名キツネ、トウサンなどとも呼ばれている。

カツオといってもハガツオはちょっと種類が違う。欧米では「ボニータ」とか呼ばれてカツオ類の代表格らしいが、日本ではちょっとマイナーだ。いい加減な魚屋だと「メジマグロ」と偽称して売っていたりするほどで、特に関東以北ではほとんど見掛けない。暖かいところの魚なのだ。このあたりでは八丈島とか伊豆諸島でやたら獲れるらしいが、なんせ身が柔らかすぎて捌いている最中からボロボロ崩れてしまうし、焼こうとすると焼いてる最中に分解してしまうし、そっと鍋に横たえて煮魚にするしかない、というのが築地の評判だ。これじゃ値がつかない。決定的なのは、サバ科の魚の特徴でアシが早いのだ。新鮮なうちはおいしいがすぐに味が落ちる。こういう厄介な魚は市場では安い。でも、おいしいものはおいしいのだ。船の上で食ったら、こんなに美味な刺身は他にない、とまで言われる。まあ、新鮮な魚が食えない東京もんは古くなっても食えるマグロでも食ってろって事だな。あれは逆に新しすぎると堅くておいしくなかったりするし(笑

ハガツオは、売ってるとすれば一匹丸ごとだ。なんせ安い魚だ。綺麗にお造りにされて発泡スチロールに乗っかってるわけじゃない。だが、これを刺身にするのは素人の腕ではむずかしいかも知れない。身割れするので、三枚におろしてる間にもどんどん分解してしまう。仕方ないからそのままザクザクと適度に刻んでアジみたいなタタキにしちゃえば良い。なに、味は刺身と変わらない。普通のカツオと違ってハガツオは寄生虫がいないのでハラミも生で食える。冬が近くなるとトロのように脂が乗ってうまい。あまり知られてないが、実は結構上等な魚だ。でも、せっせと食っても残ってしまう。いくら安いからって一匹丸ごとなんて食えるわけない。しかもコレ、日持ちしないという弱点を持っているのだ。

そこでお茶漬けだ。酔っぱらいというのは意地汚いもんで、夜中になると腹が減ったと騒ぎはじめる。「目の前に刺身があるんだから、それでジャーのご飯でも食べれば?」とママに怒られても、それじゃイヤなんだって。刺身は食い飽きたとかワガママな事を言う。「ラーメン食いたい。でもインスタントはイヤだ」とか。そんな時に、ちゃんと作ったお茶漬けというのは妙にしっくりと来る。ちゃんと作らなきゃ駄目だけど。お茶漬けといってもお茶をかけるわけじゃない、醤油で味付けしたカツオ出汁。乗せるモノは刺身の残りでも良いし、何もなければ佃煮でも良い。

まずはカツブシ削りから。伊豆の秘境・田子で仕入れた伝統の本枯れ節を三島本町大通りの刃物屋・政豊の削り器でガリガリと削る。本来は子供の仕事だが、もう寝ているので酔っぱらいの仕事になる。「おい、これくらいでいいか?」と聞かれたら「足りないわよ。もっとしっかり掻いてちょうだい」と、翌朝の味噌汁の分まで掻かせるのが正しい女房の姿というものである。ネギかアサツキを刻めば、あとはワサビ。ハガツオってのはワサビで食うものなのかショウガで食うものなのかおろしニンニクで食うものなのか不明だが、日本一のワサビ産地・中伊豆のワサビが冷蔵庫の奥深くに眠っていたので、これを使う。鮫の皮でおろすのがお約束だね。これも酔っぱらいの仕事。なんだよ、結局、全部自分でやってるようなもんじゃねーか。ママはネギを刻むだけかい? ワサビは濡れた新聞紙に包んで冷蔵庫にしまっておけば一ヶ月以上もつので是非、常備したいアイテムの一つだ。

単純な食い物だけに素材は大事だ。それが田子の本枯れ節に中伊豆のワサビと来れば申し分ない。どっちも日本一だ。お茶漬けの作り方に秘訣もへったくれもないが、ひとつだけこだわりたい。ジャーのご飯にハガツオ乗せてネギ散らしたら、カツブシの出汁を醤油で味付けして、それをグラグラと沸騰させる。完全に沸騰した熱〜いのを、ハガツオにそっと注ぐ。見る見る、表面が白っぽく変わるのが観察できるだろう。なんとも艶っぽい色である。ルノアールの少女の頬の色か、フラメンコを踊る若い娘の化粧っけのない唇の色か。そう、この魚の名前「ボニータ」というのはスペイン語で「べっぴんさん」という意味なのだった。