メシを食うのにもっとも楽しい時間は待ち時間だ。それも匂いがプーンと漂って、目の前でジュワジュワと肉汁が染み出したり、食材が微妙な色の変化を見せたりするとたまらない。食うより楽しい。そこで焼肉奉行とか鍋奉行なんて職種が出てくるわけで(職種か?)みんなの分が出来る頃には、世話人としては世話だけで腹一杯になっていたりする。そんな時においらが愛用しているのが旧式のストーブだ。中学生の頃から家に転がっている骨董品だが機能に不足はない。いや、むしろ冬の食生活には欠かせないパートナーだ。ファンヒーターでは料理は出来ないからね。
そこでストーブで焼く煮込みハンバーグ。ハンバーグは焼くのが意外に難しいんだが、これは煮込み。材料さえ吟味すれば失敗しようがない。ただしちょっと配合に工夫をしている。普通に焼くだけで煮込みになるように。理屈はかんたんで、肉やらパン粉やら炒めた玉葱やらを混ぜてこねる時に、牛乳をたっぷり入れてやるだけ。手で丸めて伸ばして小判型に、なんて望むべくもない。柔らかくてぐずぐずだ。仕方ないのでラップの上で小判型に整形して、そのままそっとラップに包んでしまう。極めて柔らかいので、フライパンに入れる時も、ひっくり返す時も、注意深く扱わないと崩壊してしまう。
メインの挽肉は合挽(牛7割、豚3割が理想)。異常に安い挽肉だと水ぶくれしてるから、ハンバーグ作ってもビショビショになったりするが、そういう肉でも良い。もちろん伊豆牛なんていう高級なのでも良い。挽肉なら知れたもんだ。伊豆牛というのは大仁の平井精肉店だけで売っているブランド牛で、というのも系列の平井牧場で育てられた牛なのだ。自前で育てた牛を、自前で売っているんだから、悪かろうはずがない。ここの合挽はハンバーグ用の牛7対豚3なのでそのまま使える。牛乳は丹那牛乳。これも地元だからね。伊豆ではコンビニでも売ってるし、子供の頃からこればかり飲んで育ったので、他社の牛乳だと味が違うような気がする。玉葱、パン粉、卵については特筆することはないが、生パン粉とか、白身まで盛りあがっているような中伊豆・大幡野の高級卵を使うととてもおいしく感じられるかも知れない。なに、ツナギくらい手を抜いたってわかりゃしないと思うんだが、高級食材だけで作ったハンバーグと、低級食材だけで作ったハンバーグとでは歴然と味が違う。まあ、すべては気のせいかも知れないのだが。
まずは付け合わせの温野菜をストーブで茹でておく。ジャガイモとかニンジンとか。季節の野菜、思いつくままで良い。手間はかかるが、古いストーブの上でコトコト煮えている温野菜というのは、眺めるだけでも期待をそそる光景である。まだビールは早い。仕事の残りを片づけるとか、古い映画のDVDでも見るとか、マッタリ待とう。続いて玉葱を炒める。すべての料理は、玉葱を炒めるところから始まるのだ。シューマイの餡しかり、カレーしかり。と、まあ、少なくともおいらの好きな料理に関してはそうだな。みじん切りした玉葱をストーブの上で気長に炒めよう。玉葱は炒めると甘みが出てくる。焦げ付かないように気長に炒めていると、キツネ色に変わってくる。ここからキッチンに移動、合挽き肉に、炒めた玉葱、パン粉、卵を投入。前述のように牛乳は多めに入れよう。味付けは塩と胡椒。ここはガリガリと黒胡椒を挽いてやりたい。臭い消しにナツメグなんてのもちょっぴり入れる。空気が入ると焼くときに割れるので、あとはしっかりと練ること。
本来なら冷蔵庫で半日ほど寝かせるのだが、腹が減ってるんだから半日は待てない。ビールも冷えてるし。子供の明日の弁当とか明後日の晩飯の分とかはしまっておいて、一番デカいのを焼こう。焦げ付くと厄介なのでしっかりと油を敷いて焼きはじめる。手早く済ませるために、最初はガスの中火でしっかり焦げ目をつけてやる。蓋する必要ないのでじっくり観察。肉の表面の色が微妙に変化しはじめたら頃合いなので、ひっくり返してストーブに移してやろう。で、ここで付け合わせの野菜をあいた場所に並べる。秋だからキノコ類なんかも良いね。
作り置きの茹で野菜と、生のマイタケ、シメジ、シイタケ、あるいは茹でたホウレンソウなど置いたら、フライパンに蓋をしてじっくり待とう。ストーブで暖まりながら、肉の焼けるかぐわしい香りに包まれる至福の瞬間。ここでよく冷えた缶ビール登場だね。肴は肉の焦げる香りだ。ほどよく一本飲み干した頃に蓋を取ってみると、ジュワジュワとハンバーグが肉汁を噴き出しながら湯気を立てている事と思われる。多めに入れた牛乳が肉汁に化けて噴出しているのだ。そこにデミグラスソース投入。市販の物でも良いが、赤ワイン、ウスターソース、ケチャップを合わせても良い。和風に仕上げるなら、大根おろしに鍋用のポン酢でも良い。けど、不思議だね。白い牛乳を入れたのに出てくる肉汁は透明だ。それがソースと混じっておいしい煮込みハンバーグに変身するまではもうひと息だ。この甘美な匂いを肴に、もう一本ビール行ってみるかい?
付録/ビーフ100%本格メリケンバーグの作り方(1人前)
用意する物/牛肉500g(安い赤身肉)、塩、黒胡椒、ケチャップ、缶ビール1ダース
とりあえず牛肉の安いところを500gほど用意する。ブロックが望ましい。筋だらけでも構わない。塩と黒胡椒を横目でチラッと眺めて、包丁を左右に一本ずつ握り、ブロックの肉をひたすら叩き切る。BGMはアイアン・メイデンなんかが良いと思われる。狂ったようにリズミカルに叩きまくる。ドラマーになったつもりで。肉が挽肉状になったら焼く。ここでもう一度、塩と黒胡椒を横目でチラッと見ても良い。入れたら駄目だよ、ビーフ100%にならない。焼くためのストーブはパーフェクション(写真参照)が望ましい。ウチの死んだ親父の言葉によれば「アメリカでも田舎には貧乏人がいっぱい住んでいる。貧乏なので電気が来てない。だからこういうストーブを使うんだ。ほら、明るくて電気いらないだろ?」親父はホラ吹きだったので信用できないが。それに夏はどうするんだ? 肉が焼けるのを眺めながらビールを飲む。半ダースも飲んだらひっくり返す。ロクに焦げ目もついてないかも知れないが、黒焦げかも知れないが、酔っぱらってるから平気だ。待ちきれずにストーブのフライパンに乗ったままのハンバーグをダラダラと食いはじめよう。熱くて舌を火傷しそうになるので、残りの半ダースの缶ビールで流し込む。なお、食うに際しては、ケチャップだけは、かけても許されるらしい。